F8の次に疑った、もう一つの「最良絞り」
父から教わった「F8で撮れ」を、前の記事で調べました。F8がどのレンズにも当てはまる「一番よく写る絞り」だという根拠は、見つかりませんでした。
ただ、私が覚えている「最良絞り」の常識は、もう一つあります。
自分のカメラで風景を撮りに行き始める少し前、カメラ店で「レンズは開放から2〜3段絞ると一番よく写る」と聞いた記憶があります。誰に聞いたのか、どの店だったのかは覚えていません。ただ、この二つの教えは、私の中では特に矛盾しませんでした。
理由は単純です。当時の私は風景を撮るために、F2.8クラスの控えめな明るさの単焦点レンズを選んで買っていました。風景ではボケの浅いピントをまず使いませんし、F1.4の明るさは要らない。F2.8の単焦点なら安く、軽く、小さく、一日歩いて撮り続けられる。そういう一式です。
F2.8のレンズを2段絞ればF5.6、3段絞ればF8。つまり私の機材では、「F8」も「開放から2〜3段」も、ほぼ同じ場所を指していました。
でも、レンズの開放F値はさまざまです。F1.2のレンズもあれば、F5.6のレンズもある。「開放から2〜3段」という数え方は、そうしたレンズでも同じように「一番よく写る」を教えてくれるのでしょうか。
「2〜3段」を、F値に直してみる
まず、算数だけをします。
図1:「開放から2〜3段」を、開放F値の違うレンズでF値に直したもの。1段絞るとF値は約1.4倍になるので、F1.2のレンズの2〜3段はF2.4〜F3.4、F5.6のレンズの2〜3段はF11〜F16になる。これは絞りの算数だけの図で、どの絞りが光学的に一番よく写るかは示していません。
同じ「2〜3段」でも、F1.2のレンズならF2.4〜F3.4、F2.8のレンズならF5.6〜F8、F5.6のレンズならF11〜F16です。絶対的なF値で見ると、まったく別の場所を指しています。ただし、この図はどの絞りが最良かを何も言っていません。「2〜3段」という規則をレンズごとにF値へ翻訳しただけで、その結果がこれだけ違う——まずそこを見ておいてほしいのです。
ここで一度、答えを出します
「開放から2〜3段絞ると一番よく写る」は、役に立つ目安ではあります。ただし、どのレンズにも当てはまる光学の法則ではありません。そして、その写真に使う絞りを決めてくれるものでもありません。
「間違いです」とは言いません。開放付近で収差が写りを制限していて、少し絞ればまだ回折の影響が小さいレンズなら、2〜3段は妥当な目安になり得ます。けれども「だいたい正しいです」とも言いません。今回確認した実測例では、一番よく写る絞りは開放付近から5段近くまで散り、同じレンズでも、画面のどこを見るかで変わるからです。
なぜそうなるのかを、順に見ていきます。
絞ると良くなることがある——前の記事のおさらい
理屈は前の記事に書いたので、ここでは四つの文にまとめます。
実際のレンズには収差があり、開放付近では収差がピント面の写りを制限していることがあります。絞るとレンズの外周を通る光を使わなくなるので、外周に偏った収差の影響が減ることがあります。その一方で、回折による光の広がりは開放のときから存在し、絞るほど増えていきます。だから、収差の減る効果と回折の増える効果がぶつかるところに「一番よく写る領域」が出ることがあり、その位置はレンズと物差しによって動きます。
「2〜3段絞ると一番よく写る」という経験則は、この「途中の領域」の話をしています。ここまでは前の記事と同じです。
では、なぜ「開放から2〜3段」が特別なはずがあるのか
ここが、この記事の要です。
通常の撮影距離では、回折の量は絶対的なF値で決まります。F8ならF8ぶんの回折が出る。そのレンズの開放がF1.4だったかF4だったかは、回折には関係ありません。
一方、収差の量は、レンズの設計で決まります。開放でどれだけ収差が残っているか、どんな種類の収差か、絞るとどのくらい減るかは、一本一本違います。
ピント面の写りで見た「一番よく写る領域」は、この二つの釣り合いで決まります。片方は絶対的なF値で決まり、もう片方はレンズごとに違う。そうであれば、二つが釣り合う場所が、どのレンズでも「開放から2〜3段」という同じ距離に来る理由は、どこにあるのでしょうか。
今回調べた範囲では、そうなる仕組みは見つかりませんでした。「開放からの段数」は、絞りの算数としては正しく、経験則としては役に立ちます。でも、光学がそこに最良を置いてくれるわけではないのです。
測ってみると、レンズごとに散る
実際のレンズはどうか。今回は、既存の測定資料を横断して確認しました。
たとえばCanonのEF 50mm F1.8 STMは、ある測定サイトの中心解像の測定で、F4——開放から2段と少し——が最も高い値でした。「2〜3段」に近い例です。
一方、前の記事で紹介したZEISSの85mm F1.4は、メーカーの測定で最も高い値が出たのはF8、開放から5段でした。逆に、F2.8通しの標準ズームの中には、開放から1段以内で中心の値がほぼ最高に達する例もあります。
今回確認できた実測例をまとめると、一番よく写る絞りは、開放付近から5段近くまで散っていました。「2〜3段」に収まる例もあれば、大きく外れる例もある。何本のうち何本がどうだった、という比率は言えません。それでも、「どのレンズも2〜3段」ではないことは、この範囲でも言えます。
同じレンズでも、「どこを見るか」で最良は変わる
もう一つ、私が意外に思った例があります。
Tokinaの56mm F1.4(APS-C用)を、一つの測定サイトが同じ条件で測った結果では、画面の中心が最も良かったのはF2.8、開放から2段でした。ところが画面の外側が最も良かったのはF5.6〜F8、開放から4〜5段です。一本のレンズの、一回の測定で、中心と周辺の「一番」が2〜3段ずれていました。
図2:一本のレンズの実測例。画面の中心が最も良い絞りと、画面の外側が最も良い絞りが、同じテストの中で別だった(Tokina 56mm F1.4 E、一つの測定サイトによる測定)。これは一本のレンズの例で、すべてのレンズが同じように振る舞うという意味ではありません。
一本の例ではありますが、示していることは大きい。「このレンズの一番よく写る絞りは?」という問いには、「画面のどこを見て言うのか」を決めないと、一つの答えが出ないのです。
ここで、私自身の昔の経験に戻ります。当時の風景写真は、ピントがほぼ無限遠でした。F8を常用していたのは、被写界深度が必要だったからではありません。気にしていたのは、写真が「ビシッと」写っているか、「ボヤっと」しているかでした。半切に伸ばすことが多く、その大きさで見ると、ピントの甘さや鮮鋭感の不足に気づけたように思います。開放で撮ったものはビシッとしない——そういう印象を、私は持っていました。これは当時の私の印象であって、測ったものではありません。
私は、2〜3段の規則で撮っていなかった
白状しておくと、「開放から2〜3段」を知ったあとも、私はその規則で撮っていませんでした。
風景用のF2.8のレンズでは、たしかにF8前後を使っていました。でも同じ時期、50mm F1.4はときどき意図的にボカした写真を撮るために持っていましたし、85mm F1.4は「開放で使うレンズ」だと思っていて、基本的に開放で使っていました。F1.4から2〜3段絞ればF2.8〜F4です。そこで使った記憶は、ほとんどありません。
つまり私は、規則を知っていて、受け入れてもいて、しかし実際にはレンズごとに「そのレンズに何をさせたいか」で絞りを決めていた。F2.8のレンズでは、それがたまたま「2〜3段」と重なっていただけです。
レンズの最良絞りと、この写真の絞りは、別の話
「レンズにとって一番よく写る絞りはどこか」と、「この写真にはどの絞りが要るか」は、別の問いです。
前者は、測れば答えが出ます。ただし、何を「よく写る」の物差しにするか、画面のどこで見るか、どんなピントの置き方かを決めたうえでの答えで、レンズごとに違います。後者は、レンズではなく、撮りたい写真が決めます。
私の場合は、こうです。ボカしたければ開けます。星景で光が要るときも開けます。風景なら、その写真に必要な被写界深度から絞りを決めます。必要のないところまで絞ることはしませんが、被写界深度のほうが大事なら、回折の代償は受け入れます。写真の目的が絞りの方向を決めているなら、まっすぐそこへ行く。それだけです。
では、「開放から2〜3段」はどうするか。私は、使ってもいいと思っています。ただし、それはデフォルト値であって、最終値ではありません。スタート値です。撮りたい写真に、絞りを決めるより強い理由がないとき、参照する値。写真に何が要るか分かっているのに、まず2〜3段に合わせてからそこへ動く必要はありません。それは無意味な回り道です。
レストランに行って「シェフ、私は何が食べたいんでしょう?」と聞く人はいません。何を撮りたいかは、自分で決めることです。
「一番よく写る絞り」は、シェフのおすすめ料理のようなものです。食べてもいい。でも、食べなきゃいけないわけじゃない。お寿司がおすすめでも、タマゴかけご飯が食べたかったら、食べればいい。
絞りを決めるのは、レンズではなく写真のほうだ。
ここから先は、もう少し詳しく知りたい人へ
撮影で必要な結論は、ここまでで完結しています。ここから先は、本文で「物差しによる」「レンズによる」と省いたところを、もう少し細かく見たい人への補足です。新しい主張はありません。
「一番よく写る」の物差し
「一番よく写る絞り」は、少なくとも次を決めないと一つの数字になりません。
- 何を測るか:ピント面の細かさ(MTF50など)、低い周波数でのコントラスト、どこまで解像するか。物差しが違えば、最良の絞りは同じレンズでもずれます。
- 画面のどこか:中心、中間、周辺。本文のTokinaの例のように、中心と周辺で最良の絞りが違うことがあります。
- ピントをどう置くか:絞るたびにピントを合わせ直すか、開放で合わせたまま絞るか。レンズによっては絞るとピント位置が動き、順位が変わります。
- 最後にどう見るか:センサーの画素、現像、プリントや画面のサイズと鑑賞距離で、差が見えるかどうかが変わります。
これらを平均して「一番良いF値」を一つ決めることはできません。どれを優先するかは、撮りたい写真が決めます。
確認できた実測例
本文で触れた例を含め、今回確認できた実測例を並べます。測定サイトやメーカーによって測り方が違うので、別の出典の数値どうしを順位比較はしていません。同じ出典の中でだけ、開放からの段数を読んでください。
| レンズ | 開放 | 何を測ったか | 最も良かった絞り | 開放からの段数 |
|---|---|---|---|---|
| Canon EF 50mm F1.8 STM(LensTip) | F1.8 | 中心解像(MTF50) | F4 | 約2段 |
| Nikon Z 50mm F1.8 S(LensTip) | F1.8 | 中心解像(MTF50)。開放から高い | F4 | 約2段 |
| Nikon AF 50mm F1.8D(LensTip) | F1.8 | 中心解像(MTF50) | F5.6 | 約3段 |
| Canon EF 50mm F1.2L(LensTip) | F1.2 | 中心解像(MTF50) | F4〜F5.6 | 約3.5〜4.5段 |
| Sony FE 35mm F1.4 GM(LensTip) | F1.4 | 中心解像(MTF50)。開放から高い | F2.8〜F4(平坦) | 約2〜3段 |
| Tamron 28-75mm F2.8 G2(LensTip) | F2.8 | 中心解像(MTF50)。焦点距離で変わる | 開放〜1段 | 0〜1段 |
| Sigma 24-105mm F4 Art(LensTip) | F4 | 中心解像(MTF50) | 開放〜1段 | 0〜1段 |
| Tokina 56mm F1.4 E(OpticalLimits、APS-C) | F1.4 | 中心/画面外側 | 中心F2.8/外側F5.6〜F8 | 中心2段/外側4〜5段 |
| ZEISS Planar 1.4/85(メーカー技術資料) | F1.4 | 測定MTF(10〜80 lp/mm) | F8。F11以降は低下 | 5段 |
表1:今回確認できた実測例。「最も良かった絞り」は各出典の測定条件(カメラ、現像、像高、ピントの置き方)に限った値。出典が違う行どうしの優劣は比べられません。何本のうち何本がどの範囲に入るか、という比率も分かりません。
読み取れることは一つです。同じ「中心解像」という物差しの中でさえ、最も良い絞りは開放から0段〜4段以上まで散っていて、明るいレンズどうしでも一致しない。どのレンズでも「開放からの段数」で最良が決まっているなら、こうはなりません。
資料の中の「2〜3段」
「2〜3段という話はどこから来たのか」と思う人もいるでしょう。今回の調査で確認できた資料を、いくつか挙げます。
古い光学資料では、1910年のアメリカ標準局の資料が、写真用のように広い画面を写す対物レンズについて、開口の直径を開放の半分に絞ると像の明瞭さが改善する、と書いています。直径が半分ということはF値が2倍、つまり2段相当です。ただし「2〜3段」という決まり文句も、それがどのレンズにも最良だという話も、この資料にはありません。
メーカーの資料にもあります。Nikonの引伸しレンズEL-Nikkorの説明書は、四隅までシャープに引き伸ばすために2〜3段絞るよう指示しています——これは引伸しレンズの話で、撮影レンズ一般には広げられません。2012年のNikon D800のテクニカルガイドは、周辺のコントラストは最大開口から2〜3段絞ると一般に改善し得る、と書きつつ、結果はレンズごとに異なる、とも明記しています。
確認できた資料のいくつかは、周辺まで含めた画面全体の写りの文脈で「絞る」ことを勧めています。ただ、「開放から2〜3段」という決まり文句が最初にどこで生まれ、誰が広めたのかは、今回の調査では分かりませんでした。
今回の調査で分からなかったこと
- 「2〜3段」という決まり文句の初出と、どれくらい広く教えられてきたか。
- 世の中のレンズのうち、最良の絞りが開放から何段の範囲に入るものがどれくらいあるか(今回の例は限られた本数で、比率は言えません)。
- 一本のレンズについて、開放から4段までを中心・中間・周辺で同じ条件で測った完全な数表。
- 個体差、ピント位置のずれ、ボディ側の処理が、個々の結果にどれだけ効いているか。
この記事の話は、こうした空欄を埋めずに書けることだけを書いています。