500ルールとNPFルールで、20年近く使ってきた経験則を検証する
星景写真を撮るとき、露光時間を何秒にするか。
私の場合、その答えは長いあいだ「8秒」でした。
Nikon D3を使っていた頃から、15mm前後の超広角レンズで星景写真を撮るときは、だいたい8秒。PENTAX K-1を使うようになっても8秒。仕事でLUMIX S1Rを使ったときも8秒。そして現在も、基本的には8秒で撮っています。
もう20年近く、同じようなことをやっているわけです。
ところが今回、星景写真のピントについて調べ直した流れから、「500ルール」や「NPFルール」について改めて調査することになりました。
そこで、ちょっと困ったことに気づきました。
私は、なぜ8秒で撮っているのだろう?
もちろん、理由を忘れていたわけではありません。
問題は、その8秒を決めた当時と現在では、カメラの方が大きく変わっていたことです。
そこで今回は、20年近く使ってきた自分自身の「8秒」を、いったん疑ってみることにしました。
そもそも、なぜ8秒だったのか
私が8秒を使い始めたのは、500ルールを知ったからではありません。
というより、当時の私は500ルールそのものを知りませんでした。
15mmだから500÷15で約33秒――などという計算をして、「いや、33秒は長すぎるから8秒にしよう」と考えたわけではないのです。
もっと単純でした。
実際に撮ってみて、
「これくらいなら星が点に見える」
そのあたりが8秒だった。
ただし、「星を点にする」ことだけで8秒を決めたわけでもありません。
比較明合成では、短ければ短いほどいいわけでもなかった
当時、私が星景写真で多用していたのが比較明合成です。
何枚もの写真を連続して撮影し、明るい部分を残しながら合成することで、星の軌跡を長くつなげていく方法です。
この撮影では、1枚ごとの露光時間を短くすれば星の動きは小さくなります。
極端な話、1/1000秒で連続撮影できれば、隣り合う写真の星はほとんど同じ場所に写るでしょう。
では1秒なら?
かなり安心できそうです。
2秒なら?
これも悪くない。
4秒は?
実際、これは検討した記憶があります。
でも、露光時間を8秒から4秒にすれば、同じ明るさを得るにはISO感度を1段上げる必要があります。
しかも撮影枚数はほぼ倍になります。
当時使っていたNikon D3では、現在のカメラほど気軽に高感度を使えるわけではありませんでした。メディア容量や、その後の処理枚数も無視できません。
星をなるべく点にしたい。
比較明合成の軌跡もなるべくきれいにつなぎたい。
でもISOはむやみに上げたくない。
撮影枚数も増やしたくない。
そうやって考えていった結果、最後は、
「まあ、8秒でいこう」
です。
理屈を考えなかったという意味ではありません。
考えられることを考えたうえで、唯一の正解がある問題ではないから、最後は「エイヤッ!」と決めた。
私にとっての8秒は、そうやって生まれた数字でした。
ところが、8秒を選んだ理由の一つは途中で消えた
比較明合成を続けていると、別の問題が出てきます。
連続撮影して比較明合成しても、星の軌跡のコマとコマの境界が見えることがあります。
長秒時ノイズ低減をOFFにして、できるだけ間隔を空けずに連写しても、完全に滑らかになるとは限りません。
私はその後、この継ぎ目を後処理で目立ちにくくする方法を使うようになりました。
その方法自体は今回のテーマから外れるので、別の機会に改めて検証したいと思います。
重要なのは、ここです。
比較明合成の軌跡をきれいにつなぐために露光時間を決める必要性が、以前ほど大きくなくなった。
だったら、その時点で8秒を見直してもよかったはずです。
でも、私は見直しませんでした。
なぜ8秒を変えなかったのか
理由は単純です。
特に困っていなかったからです。
8秒で撮っておけば、比較明合成の素材として使える。
微速度動画にも使える。
その中から1枚を選んで、普通の星景写真として仕上げることもできる。
ISO感度も必要以上に上げなくて済む。
撮影枚数も極端には増えない。
つまり8秒は、どれか一つの用途に対する「最適解」ではなくても、いろいろな用途でそこそこ使いやすかったのです。
そして私には、撮影について一つの考え方があります。
大きな問題がないのに、撮影時に新しいリスクを持ち込まない。
4秒にすれば、星はもっと止まるかもしれません。
でもISOを上げる必要がある。ノイズが増えるかもしれない。枚数も増える。
それなら、8秒で問題が起きていない以上、わざわざ変える理由がありません。
こうしてD3で使っていた8秒は、K-1でも8秒のまま残りました。
LUMIX S1Rを仕事で使ったときも8秒でした。
そして現在も8秒です。
いつの間にか8秒は、撮影条件というより、私の撮影のルーチンワークの一部になっていました。
その間に、カメラの方が変わっていた
ここで今回、一番考えさせられたことが出てきます。
私が8秒を使い始めたD3は、約1200万画素のフルサイズ機です。
その後、カメラはどんどん高画素化しました。
ここで重要なのは、高画素カメラになったからといって、星が急に速く動くわけではないことです。
同じ焦点距離、同じ露光時間、同じ条件なら、センサー面上で星像が移動する物理的な距離そのものは変わりません。
変わるのは、それを記録する画素の大きさです。
今回の検証で使った代表条件では、15mm・8秒での星像の移動量は、中心付近でおおよそ次のようになりました。
| カメラ | 15mm・8秒での移動量の目安 |
|---|---|
| Nikon D3 | 約0.94 pixel |
| Nikon D850 | 約1.83 pixel |
| Sony α7R V | 約2.11 pixel |
同じ8秒です。
星がセンサー上を移動した物理的な距離も同じです。
でもD3では約1 pixelだったものが、高画素機では約2 pixelにまたがって記録される。
つまり、
私の8秒が変わったのではありません。8秒を見る物差しの方が変わっていたのです。
これは、かなり重要なことでした。
500ルールなら、15mmは約33秒?
そこで「500ルール」です。
星景写真を調べていると、よく、
露光時間 ≒ 500 ÷ 焦点距離
という説明を見かけます。
15mmなら、
500 ÷ 15 ≒ 33秒。
約33秒です。
私の8秒と比べると、4倍以上あります。
正直なところ、長い。
私の感覚からすると、
「そんなに露光して、本当に星は点なの?」
と思います。
ただし、ここで「500ルールは間違い」と結論づけるのも違います。
今回調べてみると、500ルールで重要なのは、「500」という数字を自然法則のように考えないことでした。
500、400、300、200……何が変わっているのか
500ルールには、400ルール、300ルール、200ルールといったバリエーションもあります。
これらを単純化して考えると、数字を小さくするほど許容する星像の移動量を厳しくしていることになります。
今回のモデルでは、像面上で許容する移動量はおおよそ、
- 500ルール:約36.5µm
- 400ルール:約29.2µm
- 300ルール:約21.9µm
- 200ルール:約14.6µm
となりました。
つまり「500」という数字そのものに絶対的な意味があるわけではありません。
言い換えれば、
「これくらいの星の流れなら許容しましょう」
という基準が先にあり、それを簡単な計算にしたものと考えた方が分かりやすい。
そしてここには、カメラの画素ピッチが入っていません。
同じ15mmなら、D3でも高画素機でも同じ秒数になります。
ここが、高画素化した現在では気になるところです。
NPFルールは、カメラの画素ピッチも見る
そこで登場するのがNPFルールです。
500ルールより少し複雑ですが、大きな違いは、焦点距離だけで決めないことです。
絞り値や画素ピッチなども考慮します。
今回、NPFルールの一次資料までたどって調べてみると、一般に紹介される簡略式だけではなく、より詳細な式が存在することも確認できました。
ただ、ここで数式を覚えることが目的ではありません。
今回の私にとって重要だったのは、
「同じ15mmだから同じ秒数」とは限らない
という考え方です。
D3と現在の高画素機では、1 pixelの大きさが違います。
ならば、「星を何pixelまでの移動に抑えるか」という観点では、同じ8秒でも意味が変わります。
これは、私が20年近く8秒を使っている間に、知らないうちに変わっていた前提でした。
では、1 pixel以内なら「星は止まっている」のか?
ここまで来ると、別の問題が出てきます。
そもそも「星が止まっている」とは何でしょう?
1 pixel以内なら止まっている?
1.5 pixelなら?
2 pixelなら流れている?
では、6000万画素の写真を100%表示して確認する場合と、SNS用に2000pixel程度へ縮小する場合は同じでしょうか。
大きくプリントする場合は?
レンズの収差で星像そのものが1 pixelより大きければ?
魚眼レンズなら、私はもともと周辺像が不利になることを承知で使っています。
周辺まで完全な点像にするためにISOを上げるくらいなら、私はある程度そこを許容してノイズ耐性を優先してきました。
つまり、
「何秒なら星が止まるか」という問いには、実は唯一の答えがありません。
どこまでの移動を許容するのか。
どんなカメラを使うのか。
どの焦点距離なのか。
最終的にどの大きさで写真を見るのか。
そして、星を止めることと引き換えに何を失うのか。
そこまで決めないと、本当の意味で露光時間は決まりません。
では、昔の8秒は間違っていたのか?
今回の検証を始めたとき、少し気になっていたことがあります。
もしかすると、私は20年近く間違った数字を使い続けていたのではないか。
でも、調べてみると、そう単純な話でもありませんでした。
今回の代表条件では、D3・15mm・8秒で、中心付近の星像移動量は約0.94 pixelでした。
偶然とはいえ、ほぼ1 pixelです。
ただし、ここは強調しておきます。
私は「1 pixel以内にしよう」と計算して8秒を選んだわけではありません。
後から計算してみたら、たまたまそうなっただけです。
しかも画面周辺では移動量はもっと大きくなります。
ですから、
「村田は20年前に1 pixelルールを実写から発見していた」
などという話ではありません。
ただ、当時D3で写真を見ながら「これくらいなら点に見える」と判断して決めた8秒が、結果としてその程度の移動量だった。
これは個人的には、とても面白い結果でした。
だからといって、現在の高画素機でも8秒が同じ意味を持つわけではありません。
昔の8秒が間違っていたというより、
昔の8秒を、そのまま現在へ持ってくる根拠の一部が、いつの間にか変わっていた。
そう考えるのが一番近いと思います。
経験則は、失敗しなくても古くなる
今回の調査で一番考えさせられたのは、500ルールそのものではありませんでした。
経験則は、いつ古くなるのか。
私は8秒にした理由を忘れていたわけではありません。
当時のカメラで実写し、星の見え方を確認し、比較明合成、ISO、ノイズ、撮影枚数、メディア容量などを考えて決めました。
その後、比較明合成の継ぎ目については後処理で対処できるようになりました。
カメラは高画素化しました。
でも8秒は、ずっと大きな問題なく使えました。
だから、見直すきっかけがなかった。
これは少し怖いことでもあります。
経験則というものは、ある日突然、
「本日をもって、このノウハウは古くなりました」
と教えてくれるわけではありません。
失敗が起きれば気づきます。
ところが、そこそこうまくいっている場合は気づきにくい。
機材や前提条件だけが少しずつ変わり、経験則の方が静かに古くなっていくことがあります。
今回の私の8秒は、その一例だったのかもしれません。
では、これから私は何秒で撮るのか?
ここまで調べたのだから、
「これからは4秒にします」
となりそうなものです。
でも、たぶん私は、これからも8秒で撮ると思います。
少なくとも現時点では、積極的に変えようとは思っていません。
なぜなら8秒は、もう私の撮影ルーチンの一部だからです。
8秒に設定して、いつものように撮る。
比較明にも使える。
微速度動画にも使える。
一枚を選んでも使える。
そして今のところ、私の写真で無視できないほど大きな問題が起きているわけでもありません。
今回の調査によって、高画素機では8秒のpixel上の意味がD3時代とは違うことも分かりました。
それでも、数字を変えることには別のトレードオフがあります。
ですから今後、8秒で明確な問題が起きるか、あるいは8秒を捨てても使いたくなるほど魅力的な方法が出てくれば、そのときは変えるでしょう。
それまでは、おそらく8秒です。
ただし――。
これは「皆さんも8秒で撮ってください」という話ではありません。
まして、
「15mmなら8秒が正解です」
という新しいルールを作りたいわけでもありません。
むしろ今回500ルールとNPFルールを調べて分かったのは、その逆でした。
カメラが違う。
画素ピッチが違う。
レンズが違う。
焦点距離が違う。
許容できる星の流れも違う。
写真を何に使うかも違う。
そして、星を止めるためにISOやノイズをどこまで犠牲にできるかも、人によって違います。
500ルールも、NPFルールも、私の8秒も、それだけで唯一の答えにはなりません。
大切なのは、その数字が何を基準に決められているのかを知ることだと思います。
そして機材や目的が変わったとき、ときどきその前提を疑ってみる。
20年近く8秒で撮ってきた私自身が、今回それをやることになりました。
結局、8秒という数字そのものは変わらないかもしれません。
でも、今回の調査をする前と後では、私にとって8秒を使う意味は少し変わりました。
ルールは答えではなく、考えるための出発点です。
500ルールもNPFルールも、そして長年使ってきた自分自身の経験則も。
そのくらいの距離感で付き合うのが、ちょうどいいのかもしれません。