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Sidekick Lab
by Ichiro Murata

「いつ、どこへ行けばいい?」から始まった

――Sidekick Plannerを作ろうと思った理由

Sidekick Plannerは、撮影に失敗したから作ったのではない。「ここに立てと言われれば撮れる。でも、この『ここ』が分からない」。その「ここ」を簡単に探せるようにしたい、というところから始まった。

村田一朗|写真家・Sidekick開発者

Sidekick Plannerを作ろうと思ったきっかけは、私自身がダイヤモンド富士やパール富士を撮り続けていたからではありません。

むしろ、私はどちらもそれほど撮っていません。

ダイヤモンド富士は、富士山の山頂に太陽が重なる。

パール富士は、富士山の山頂に月が重なる。

条件が合えば、とても印象的な写真になります。

でも、その写真を撮るために必要なのは、撮影技術だけではありません。

いつ、どこへ行けばいいのか。

そこが分からなければ、始まりません。

私がそれを強く意識したのは、10年以上前だったと思います。

「今度、一緒にパール富士を撮りに行かない?」

当時、Twitterで知り合った人に、パール富士を長く撮っているベテランがいました。

その人から、

「今度、一緒にパール富士を撮りに行かない?」

と誘われました。

私はついて行きました。

指定された場所へ行く。

カメラを準備する。

時間を待つ。

月が来る。

そして、無事にパール富士を撮ることができました。

別に撮影そのものが難しかったわけではありません。

むしろ、その場に立ってみて思いました。

ここに立てと言われれば、撮れる。

露出をどうするか。

どのレンズを使うか。

どう構図を作るか。

写真家として、その場でやるべきことは分かります。

でも、一つ大きな問題がありました。

そもそも、どうやってこの場所を見つけたんだ?

撮り方ではなく、そこへ行くまでが難しい

パール富士を撮りたい。

それなら、月と富士山が重なる場所へ行けばいい。

言葉にすると簡単です。

でも実際には、

月がどこから昇るのか。

その時刻に富士山との位置関係はどうなるのか。

どの方向から見れば山頂に重なるのか。

その位置まで実際に行けるのか。

そうしたことを考えなければなりません。

撮影現場に着いてからなら、私には撮りようがあります。

でも、

いつ、どこへ行けばいいのか。

そこを自分で求めるのは簡単ではありませんでした。

だったら、

簡単にできないのか?

それがSidekick Plannerの出発点です。

本当に、それだけです。

「撮れなかったから作った」わけではない

こういう話を書くと、

「何度もパール富士の撮影に失敗したから、それを解決するソフトを作った」

という話にした方が、物語としては分かりやすいかもしれません。

でも、実際は違います。

私はパール富士を撮り続けていたわけではありません。

ダイヤモンド富士を何度も追いかけていたわけでもありません。

失敗を繰り返して、

「もう失敗したくない」

と思って作ったソフトでもありません。

むしろ逆です。

詳しい人について行ったら、撮れた。

そこで、

「この人が知っている『いつ、どこへ行けばいい』を、自分でも求められないのか?」

と思った。

それだけでした。

計算できるはずだ

考えてみれば、太陽や月がどこにあるのかは、完全な偶然ではありません。

日時が決まれば、位置を計算できます。

富士山の場所も分かっています。

撮影地点も地図上の座標で表せます。

なら、

計算できるはずです。

この考え方自体は、私にとって特別なものではありませんでした。

前に書いたように、会社員時代にはテレビの同期回路を設計していました。

「たぶん、この辺に信号が出ている」

では嫌だったので、正確に測れる治具を作りました。

星景写真では、何千枚もの画像を人間が一枚ずつ処理するのが馬鹿らしくなって、コンピューターにやらせる仕組みを作りました。

今回も同じです。

太陽や月の位置を人間が勘で探す必要がないのなら、

コンピューターに計算させればいい。

ただ、答えは一つではなかった

ところが実際に考え始めると、単純ではありません。

例えば、

「富士山の山頂に太陽が重なる場所」

といっても、一点だけではありません。

日が変われば場所が変わります。

時刻によっても変わります。

撮影地点と富士山の距離も違います。

太陽の大きさも、構図の中では重要になります。

そして地図上では良さそうに見えても、

そこに人間が立てるとは限りません。

道路なのか。

山の中なのか。

海なのか。

建物の中なのか。

撮影場所として成立するのか。

さらに、地形があります。

計算上では富士山と太陽が重なっていても、途中に山があれば見えません。

考え始めると、

「太陽の位置を計算すれば終わり」

という話ではありませんでした。

でも、私はこういう話が嫌いではありません。

問題が増えたら、

一つずつ分ければいい。

分かることと、分からないことを分ける

ここで重要なのは、全部をコンピューターに決めさせようとしないことだと思っています。

例えば、

「この日時、この場所からなら、太陽と富士山はこういう位置関係になる」

これは計算できます。

月も計算できます。

地形の高さも、データがあれば調べられます。

撮影地点の候補も、条件を決めれば探すことができます。

そういうものは、コンピューターにやらせればいい。

でも、

そこでいい写真が撮れるか。

これは別の話です。

新月で快晴なら、天の川はきれいなのか

星景写真を撮っていると、それはよく分かります。

新月。

山の上。

光害が少ない。

天気予報は快晴。

条件だけ見れば、天の川はきれいに見えるはずです。

私は燕山荘に何泊もして、毎晩星を撮ったことがあります。

毎晩、快晴。

月の条件もいい。

ところが、

天の川の見え方は毎晩違いました。

空気の透明度が違う。

水蒸気の量も違う。

同じ「快晴」でも、写真にすると全く同じではありません。

天気予報が間違っているわけではありません。

天体計算が間違っているわけでもありません。

ただ、

計算で分かることと、現場でしか分からないことは違う。

「明日の朝、どこで撮ります?」

山小屋に泊まっていると、写真仲間から聞かれることがあります。

「村田さん、明日の朝、一緒に撮らせてもらっていいですか?」

「いいですよ」

そこまではいい。

すると当然、次に聞かれます。

「じゃあ、どこへ行きます?」

でも私は、

「明日の朝起きて、外に出てみないと分からない」

と答えることがあります。

適当に言っているわけではありません。

地図は見ています。

日の出の方向も分かっています。

天気予報も見ています。

山の地形も知っています。

かなり考えています。

それでも、

最後は朝にならないと分からない。

右へ行くか、左へ行くか

朝、小屋を出る。

空を見る。

雲を見る。

光を見る。

風を見る。

昨日とは違う。

予報とも少し違う。

そこで初めて、

「今日はこっちかな」

と思う。

小屋を出て右へ行くのか。

左へ行くのか。

それすら、その瞬間に決めることがあります。

理屈で考えていないわけではありません。

むしろ、かなり考えています。

でも、最後の判断は、

「なんとなく、こっち」

だったりします。

私は理系の人間ですが、写真を撮るときには、最後のところを右脳が担当しているような気がします。

宝くじをどこで買うか

少し変な例えですが、私は写真について、

「宝くじをどこで買うか」と「宝くじが当たったか」は別の話

だと思っています。

宝くじを売っていない場所へ行っても、買えません。

まず売っている場所を探す必要があります。

そこまでは調べられます。

でも、その売り場で買えば当たるとは限りません。

写真も似ています。

ダイヤモンド富士が成立しない場所へ行っても、ダイヤモンド富士は撮れません。

月がそこを通らない日に行っても、パール富士にはなりません。

なら、

成立する日時と場所は、先に調べておけばいい。

そこはPlannerがやればいい。

でも、その場所へ行けば作品が撮れるのか。

それは別の問題です。

Plannerが決めるのは、写真ではない

Sidekick Plannerを作っていると、

「これで撮影場所を決めるんですか?」

という話になりそうですが、私自身は少し違う感覚を持っています。

Plannerが教えるのは、

写真の正解ではありません。

例えば、

この日に。

この辺りから。

この方向を見ると。

この位置に太陽や月が来る。

そういう、

計算できる条件

です。

その候補を見て、

「面白そうだ」

と思うのか。

実際に行くのか。

現場で少し場所を変えるのか。

天気を見て中止するのか。

予定していた写真を捨てて、全く違うものを撮るのか。

そこは写真家が決めればいい。

パール富士を撮らない人間が、Plannerを作っている

少し面白いのは、Plannerを作っている私自身が、今でもダイヤモンド富士やパール富士を熱心に追いかけているわけではないことです。

作ったのだから、毎日のようにPlannerを使って撮影へ行っているのかというと、そうでもありません。

なぜなのか。

よく分かりません。

たぶん、そこは右脳が担当しているのでしょう。

「今日はこれを撮りたい」

と思ったら撮る。

思わなければ行かない。

Plannerが、

「今日はここへ行けば撮れます」

と教えてくれても、

撮りたいと思わなければ行きません。

それでいいと思っています。

Plannerは、写真家に命令するためのソフトではありません。

分かることは、先に分かっていた方がいい

だからといって、計算する意味がないわけではありません。

むしろ逆です。

分かることなら、先に分かっていた方がいい。

太陽がそこを通らないことを、現地へ行ってから知る必要はありません。

月が富士山と重ならないことを、一晩待って確認する必要もありません。

途中の山に遮られて見えないことが計算で分かるなら、先に知っておけばいい。

人間がやらなくてもいいことは、コンピューターにやらせる。

その分、

人間は現場でしかできないことをすればいい。

空を見る。

光を見る。

雲を見る。

風を感じる。

構図を決める。

シャッターを切る。

あるいは、

今日は撮らない

と決める。

「いつ、どこへ行けばいい?」をなくしたかった

最初にパール富士へ連れて行ってもらった日。

私は撮れました。

撮影そのものには、それほど困りませんでした。

困ったのは、その前です。

どうして、この人は今日ここへ来れば撮れると分かったんだ?

そこでした。

今なら、その問いに対する私なりの答えがあります。

分かる部分は計算する。

地図にする。

候補を探す。

見える形にする。

そして、

写真家が判断できるところまで持っていく。

その先は、写真家の仕事です。

写真を撮る時間を増やす

大学4年の頃、高木幹雄先生から聞いた言葉を、何度か書いてきました。

正確な引用ではありませんが、

自動化できるものはコンピューターにやらせればいい。人間の頭はクリエイティブなことをするためにある。

という趣旨の話です。

比較明合成でもそうでした。

人間が一か月かけて画像を重ねる必要はない。

コンピューターにやらせればいい。

Sidekick Plannerも、結局は同じなのかもしれません。

人間が地図と天体データを見ながら、延々と計算できることを調べる必要はありません。

そこはコンピューターにやらせればいい。

でも、写真そのものまでコンピューターに決めてもらう必要はありません。

Plannerで分かることは、Plannerに計算させる。

Plannerでは分からないものを見るために、写真家は現場へ行く。

それでいい。

最後は、自分で決める

Sidekick Plannerは、

「ここへ行けば、いい写真が撮れます」

と保証するソフトではありません。

そんなことは、たぶん誰にもできません。

同じ場所。

同じ時刻。

同じ機材。

それでも写真は変わります。

雲が変わる。

光が変わる。

空気が変わる。

そして何より、

撮る人が違う。

だからPlannerがやるべきことは、写真の正解を出すことではないと思っています。

撮りたいものがある。

でも、

いつ、どこへ行けばいいのか分からない。

なら、そこまでは計算すればいい。

その場所に立った後は、

空を見ればいい。

光を見ればいい。

ファインダーを見ればいい。

そして最後は、

自分で決めればいい。

Sidekick Plannerは、10年以上前にパール富士へ連れて行ってもらったときの、

「ここに立てと言われれば撮れる。でも、この『ここ』が分からない」

という、とても単純な疑問から始まりました。

だったら、

その「ここ」を簡単に探せるようにすればいい。

それが、Sidekick Plannerです。

この話につながる現在のSidekick