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Sidekick
by Ichiro Murata
写真とSidekickの原点

なぜ私は
写真を撮るのか

受賞歴でも機材スペックでもない。
写真家として、そしてSidekick開発者として、
その根っこにあるのは「発見すること」への飽くなき興味だ。

上野の美術館と、解説のない体験

子供の頃、両親は画家を目指していた。 戦後の日本でその道を諦めた二人は、美術館へ行くことだけはやめなかった。

私は上野の美術館へ何度も連れて行かれた。 正直に言えば、当時は退屈だった。覚えているのは入場待ちの長い列ばかりだ。

ただ、不思議なことに、作品について説明された記憶がない。

「これはこういう絵だ」
「こう見るべきだ」

そう教えられたことがない。ただ、本物だけを見続けた。

だから今でも私は、作品を見る前に解説を読むより、 まず見て、面白いと思うかどうかを大切にしている。 「この作品は何を意味しているんだろう」より「なんか好き」が先に来る。

発見する写真

私の写真の多くは、何かを表現しようとして作ったものではない。

波 ICM
動かして撮ってみた。予想外の形が現れた。
赤外線写真
葉っぱを撮ったら青くなった。その色が面白かった。
左右対称化
霜の植物を対称化したら、仮面のような顔が現れた。冬の精霊を表現しようとしたのではなく、やってみたら現れた。
比較明合成 / 星景
何百枚もの空を重ねると、見えなかった星の軌跡が浮かび上がる。

制作の順序が、 「意味 → 制作」ではなく「発見 → 感動 → 作品」 なのだ。

言語化が苦手なのは能力の問題ではなく、そもそもプロセスが違うから。 世界の中に隠れているものを探している感覚に近い。

東京大学生産技術研究所での経験

東海大学海洋学部在学中、外部研究生として 東京大学生産技術研究所・高木幹雄研究室に参加する機会を得た。 1985年前後のことだ。

テーマは気象衛星NOAAの熱赤外画像処理。 海面温度の分布から温水塊の動きを抽出し、エルニーニョ現象の兆候を探る研究だ。

使用環境:富士通FACOMメインフレーム(デュアルCPU)/ PL/I言語 / フレームバッファ型画像処理装置(512×512) / NTSC出力CRT表示 / 9トラック磁気テープ。 画像一枚の生成に1〜2分。他の環境なら数時間〜1日かかるような処理だった。

この研究室の文化は、伝統的な大学の「理論 → 応用」とは少し違った。 とにかく作る。とにかく試す。現象を見る。後から理屈を考える。

時間差のある2枚の衛星画像からブロックマッチングで動ベクトルを推定し、 温水塊の移動方向と速度をベクトル場で可視化する。 その結果として1986年、テレビジョン学会で発表した。

この経験が今の画像処理への興味の原点にある。 衛星から届いたデータの中に、目に見えない海の動きを「発見」する作業は、 写真の中に隠れた形を探す感覚と、どこかで繋がっている。

Sidekickも同じ発想だった

写真を続ける中で、何千枚もの星景写真を前に同じ作業を繰り返していた。 飛行機が写り込んだコマを一枚一枚確認して除外する。同じ空を何度も調整する。

だったら機械に任せればいい。

そう考えて、自分のためにPhotoshopのスクリプトを書き始めた。 Sidekickは商品として生まれたのではない。 撮影や現像の中で見つけた問題を解決するために生まれた。

私にとって写真もツール開発も、どちらも「発見」の延長線上にある。

上野の美術館で解説なしに本物を見続けた子供は、 今も世界の中に何が隠れているかを探しながら、シャッターを切り、コードを書いている。